電気主任技術者の自社選任とは?メリットとデメリット・条件・必要な手続き

電気主任技術者を自社選任するメリットとデメリット・必要な要件について解説します。

電気主任技術者とは

電気主任技術者は、電気工作物の工事や維持管理を監督するために選任される技術者です。
法律で定められており、基本的には高圧以上で受電する設備(中規模以上の工場や商業施設、発電所など)には必ず選任する必要があります。

自社選任とは?必要な要件

自社選任とは、自社内の電気工作物を自社の役員もしくは従業員から選任することを指します。
以下内規に記載されているとおり、主任技術者は自社選任することが原則となっています。

主任技術者制度の解釈及び運用(内規)

1.法第43条第1項の選任については、次のとおり解釈する。
(1)法第43条第1項の選任において、規則第52条第1項の規定に従って選任される主任技術者は、原則として、事業用電気工作物を設置する者(以下1.において「設置者」という。)又はその役員若しくは従業員でなければならない。
ただし、自家用電気工作物については、次のいずれかの要件を満たす者から選任する場合は、この限りでない。
なお、この取扱いは、自家用電気工作物の電気主任技術者に係る法第43条第2項の許可及び規則第52条第4項ただし書の承認についても、同様とする。

ちなみに従業員については必ずしも正社員である必要はありませんが、「主任技術者制度に関するQ&A」で以下のとおり要件が記載されています。

1.1 「従業員」の考え方について 該当箇所:内規1.(1)
Q.自社で電気主任技術者を選任する場合において、内規1.(1)でいう「従業員」とは、正社員でなければならないでしょうか?
A.自社で電気主任技術者を選任しようとする場合は、以下の両方の条件を満たせば、定年退職後に再雇用された嘱託社員等、いわゆる正社員でなくても差し支えありません。
自社で直接雇用している者であって、電気事業法施行規則第52条第1項に定める主任技術者の選任場所に常時勤務する者。
・例えば勤務時間外の事故発生といった場合においても対応が可能である等、当該事業場の保安監督業務に専念することができる者。
有期の労働契約を締結する労働者については、正社員と同一の勤務実態にあり、かつ、内規の規定を満たせる者

自社選任のメリットとデメリット

自社選任のメリットとデメリットは以下のとおりです。

自社選任のメリット

  1. 長期的なコスト削減:
    • 長期的には、外部委託に比べてコストを削減できる可能性があります。外部業者に支払う費用が不要になるためです。
  2. 迅速な対応:
    • 社内に技術者がいることで、トラブルや緊急事態に迅速に対応できます。外部業者を待つ必要がないため、ダウンタイムを最小限に抑えることができます。
  3. 柔軟な対応:
    • 社内の技術者がいることで、計画変更や新しいプロジェクトへの対応が柔軟に行えます。外部業者に依頼する場合、スケジュール調整が必要になることが多いです。
  4. 知識の蓄積:
    • 社内の設備やシステムに関する専門知識が蓄積されます。これにより、設備の効率的な運用やメンテナンスが可能になります。
  5. 手続きが簡単:
    • 外部委託に比べて手続きが簡単で、社内での調整がしやすい点です。

自社選任のデメリット

  1. 人材の確保と育成:
    • 自社内で電気主任技術者を確保する必要があり、資格を持つ人材の採用や育成に時間とコストがかかります。
    • 特に高度な資格(第1種や第2種)を持つ技術者は少ないため、確保が難しい場合があります。
  2. 責任の集中:
    • 自社の従業員が主任技術者として選任されると、その人に多くの責任が集中します。これにより、業務負担が増加し、ストレスがかかる可能性があります。
  3. 技術の更新と維持:
    • 電気技術は日々進化しているため、最新の技術や法規制に対応するための継続的な教育や研修が必要です。これもコストと時間がかかります。
  4. リスク管理:
    • 自社内で全てを管理するため、万が一のトラブルや事故が発生した場合のリスクも自社で負うことになります。外部委託の場合は、契約により委託先が一部のリスクを負担することが多いです。
  5. コストの問題:
    • 初期投資や継続的な教育・研修のコストがかかるため、短期的には外部委託よりもコストが高くなる可能性があります。

自社選任の条件

電気主任技術者の選任には以下の条件があります。

  • 資格:電気主任技術者の免状を持っていること(第1種、第2種、第3種のいずれか)。
  • 設備の種類:選任する設備の電圧や規模に応じて、必要な資格が異なります。例えば、第3種は5万V未満、第2種は17万V未満、第1種は全ての電気工作物に対応可能です²。

必要な手続き

自社選任の場合、以下の手続きが必要です。

新設した事業場に電気主任技術者を選任させる場合

新設の場合、新たに電気主任技術者を選任するため、「主任技術者の選任届出」を提出する必要があります。
その際、「電気主任技術者の資格を証明するための免状の写し」と「電気主任技術者の所属が確認できる書類(社員証の写しなど)」を添付します。

既設の事業場に選任させる電気主任技術者を変更する場合

電気主任技術者が変更となった場合、「電気主任技術者の選任又は解任届」を提出する必要があります。
その際、「電気主任技術者の資格を証明するための免状の写し」と「電気主任技術者の所属が確認できる書類(社員証の写しなど)」を添付します。
具体的な様式や記載例は所管の監督部HPに掲載されています。例えば近畿支部だと以下ページに掲載されています。

なお、上記の近畿支部HPでは、「執務に関する説明書」「選任を必要とする理由書」は以下の場合に必要となると記載されています。

当該事業場に常勤しない者を選任する場合(電圧7,000V未満及び最大電力2,000kW未満に限る)、 系列会社(半数以上の役員派遣又は資本出資50%以上の関係会社に限る)の社員を選任する場合は、以下の表に従い添付書類が必要となります。

選任者の内容 執務に関する説明書 選任を必要とする理由書
当該事業場に勤務する者 不要 不要
同一会社の他の事業場に勤務する者(最大電力2,000kW未満に限る) 必要 不要
同系列の社員で当該事業場に勤務する者 不要 必要
同系列の会社の他の事業場に勤務する者(最大電力2,000kW未満に限る) 必要 必要

兼務(事業場に常駐しない者を選任する場合)の条件

事業場に常駐しない者を選任する場合の条件は、主任技術者制度の解釈及び運用(内規)の1.(3)に記載されています。

1.法第43条第1項の選任については、次のとおり解釈する。
(略)
(3)次に掲げる要件の全てに適合する場合においては、自家用電気工作物の設置場所と異なる事業場等に常時勤務する者を、電気主任技術者として選任することができる。
この場合の法第43条第3項の届出については、次に掲げる要件の全てに適合することを確認できる説明書等を添付すること

① 選任する事業場等が最大電力2,000キロワット未満の需要設備であって、電圧7,000ボルト以下で受電するもの。

② 選任する事業場等と選任する者が、次のいずれかに該当すること。
イ 選任する者が自家用電気工作物の設置者又はその役員若しくは従業員であること。
ロ 選任する者が自家用電気工作物の設置者の親会社又は子会社の従業員であること。
ハ 選任する者が自家用電気工作物の設置者と同一の親会社の子会社の従業員であること。
ニ (1)ただし書に規定する設置者による選任及び(2)に規定するみなし設置者による選任であって、選任する者が常時勤務する事業場等の設置者と、自家用電気工作物の設置者が同一であること。

③ 選任する者が、第1種電気主任技術者免状、第2種電気主任技術者免状又は第3種電気主任技術者免状の交付を受けていること。

④ 選任する者の執務の状況が次に適合すること。
イ 選任する事業場等は、選任する者が常時勤務する事業場等又はその者の住所から2時間以内に到達できるところにあること。
ロ 点検は、規則第53条第2項第5号の頻度に準じて行うこと。

⑤ 自家用電気工作物の工事、維持及び運用のために必要な事項を電気主任技術者に連絡する責任者が選任されていること。

1.(3)の形態は、「主任技術者制度に関するQ&A」で以下のとおり「兼務」と呼ばれており、「執務に関する説明書」の提出が必要だと記載されています。

1.4 兼務 該当箇所:内規1.(3)
Q.1.(3)の形態に名前はありますか? A.「兼務」と呼びます。

Q.「要件の全てに適合することを確認できる説明書等」とはどのようなものでしょうか?
A.主任技術者兼任承認申請の際に添付する「執務に関する説明書」を添付することが考えられます。

そのため、近畿支部HPで「他の事業場に勤務する者」については「執務に関する説明書」が必要と記載されていると思われます。

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