電験における「発電用太陽電池設備に関する技術基準を定める省令」の4条「支持物の構造等」のポイントをまとめました。
【省令4条】支持物の構造等
太陽電池発電設備の主任技術者は、省令4条「支持物の構造等」に適合しているか確認する必要があります。つまり、電気的な面だけでなく、構造力学的な面でも技術基準に適合しているか確認できる知識が必要になります。具体的には、太陽電池アレイ用支持物の「構造計算書」などの書類に記載されている計算過程や条件などを確認したり、適切に工事されているか現場確認などをします。技術基準に適合していないものが見つかった場合は、適合するよう指導する必要があります。
(支持物の構造等)
第4条 太陽電池モジュールを支持する工作物(以下「支持物」という。)は、次の各号により施設しなければならない。
一 自重、地震荷重、風圧荷重、積雪荷重その他の当該支持物の設置環境下において想定される各種荷重に対し安定であること。
二 前号に規定する荷重を受けた際に生じる各部材の応力度が、その部材の許容応力度以下になること。
三 支持物を構成する各部材は、前号に規定する許容応力度を満たす設計に必要な安定した品質を持つ材料であるとともに、腐食、腐朽その他の劣化を生じにくい材料又は防食等の劣化防止のための措置を講じた材料であること。
四 太陽電池モジュールと支持物の接合部、支持物の部材間及び支持物の架構部分と基礎又はアンカー部分の接合部における存在応力を確実に伝える構造とすること。
五 支持物の基礎部分は、次に掲げる要件に適合するものであること。
イ 土地又は水面に施設される支持物の基礎部分は、上部構造から伝わる荷重に対して、上部構造に支障をきたす沈下、浮上がり及び水平方向への移動を生じないものであること。
ロ 土地に自立して施設される支持物の基礎部分は、杭基礎若しくは鉄筋コンクリート造の直接基礎又はこれらと同等以上の支持力を有するものであること。
六 土地に自立して施設されるもののうち設置面からの太陽電池アレイ(太陽電池モジュール及び支持物の総体をいう。)の最高の高さが九メートルを超える場合には、構造強度等に係る建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)及びこれに基づく命令の規定に適合するものであること。
【逐次解説】
① 解釈第2条の解説(設計荷重)
日本産業規格 JIS C 8955(2017)に規定された風圧荷重、積雪荷重及び地震荷重はそれぞれ、建築基準法施行令第 87 条、第 86 条、第 88 条を参考に設定されている。これらの荷重の再現期間は 50 年を想定しており、「当該支持物の設置環境下において想定される各種荷重」についてもこれと同等の荷重を設定することが望ましい。なお、地上に施設される発電用太陽電池設備において、傾斜地に施設される場合の風圧荷重及びアレイ面の下端部に作用する積雪による沈降荷重等については、「地上設置型発電システムの設計ガイドライン 2019 年版」(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構:2019)の技術資料が参考となる。また、水面等に施設される発電用太陽電池設備の支持物(フロート、架台、係留索、アンカー:解説 1 図参照)については、地上や建築物上に施設される発電用太陽電池設備とは異なる荷重を想定する必要があることから、解説 1 表を参考として考慮すべき荷重を検討する③ 解釈第4条の解説(部材の強度)
支持物に使用される部材は、解釈第 2 条の設計荷重に対する許容応力度設計を要求されているため、再現期間 50 年に相当する荷重に対して各部材は損傷および塑性変形しない強度を確保する必要がある。細長い部材や材厚が小さい部材に圧縮力や曲げモーメントが作用する場合には、曲げ座屈、横座屈、局部座屈等が発生するおそれがあるため、座屈を考慮した許容応力度の設定が求められる。また、部材の曲がりやねじれ等の変形が大きい場合には、支持物の構造安全性を損なうことがあるため、それらを考慮して設計することが必要である。許容応力度の設定については、以下に示す基規準・指針等が参考になる。
・「鋼構造許容応力度設計規準」(日本建築学会)
・「軽鋼構造設計施工指針・同解説」(日本建築学会)
・「アルミニウム建築構造設計規準・同解説」(アルミニウム建築構造協議会)
・鉄筋コンクリート構造計算基準・同解説(日本建築学会)
また、太陽電池モジュールの構成部材のうち荷重を負担する部材(ガラス面、フレーム)についてもこれに準じた強度を確保する必要がある。
省令4条の各号で要求されているポイントは以下のとおりです。
項目 | ポイント |
---|---|
一 自重、地震荷重、風圧荷重、積雪荷重その他の当該支持物の設置環境下において想定される各種荷重に対し安定であること。 | 解釈の「JIS C 8955(2017)」は旧版である「JIS C 8955(2004)」から、荷重の算出方法が変わっているため注意が必要。例えば、設計荷重の計算に用いる風力係数や速度圧が約1.5倍になっており、約2.3倍の耐風圧性能が要求される。つまり、旧版のJIS C 8955(2004)を元に荷重計算して強度設計すると、JIS C 8955(2017)よりも緩い設計となってしまい、技術基準に適合しない恐れがある。 |
四 太陽電池モジュールと支持物の接合部、支持物の部材間及び支持物の架構部分と基礎又はアンカー部分の接合部における存在応力を確実に伝える構造とすること。 | 各部材に作用する力が、接合部で確実に伝達できるか(=部材間の接合部で破損しないこと)を要求している。 |
五 イ 土地又は水面に施設される支持物の基礎部分は、上部構造から伝わる荷重に対して、上部構造に支障をきたす沈下、浮上がり及び水平方向への移動を生じないものであること。 | 基礎(水上設置型の場合は係留用アンカー)について、沈下や浮上がり(縦方向)だけでなく、水平方向(横方向)にも移動しない抵抗力をもつよう設計することを要求している。 |
五 ロ 土地に自立して施設される支持物の基礎部分は、杭基礎若しくは鉄筋コンクリート造の直接基礎又はこれらと同等以上の支持力を有するものであること。 | ー |
六 土地に自立して施設されるもののうち設置面からの太陽電池アレイ(太陽電池モジュール及び支持物の総体をいう。)の最高の高さが九メートルを超える場合には、構造強度等に係る建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)及びこれに基づく命令の規定に適合するものであること。 | 地上設置型の場合、最高高さが9mを超える場合には「建築基準法」の各種構造関連規定の適合も必要である。また、 JIS C 8955(2017)は高さ9mまでの太陽電池発電設備を対象としているため、設計荷重も別途検討する必要がある。 |
【補足】主任技術者は「支持物の構造等」の確認が必要
【用語】支持物等の強度計算
用語 | 概要 |
---|---|
弾性変形 | ある範囲の応力を加えると、その大きさに比例して変形(ひずみ度)が大きくなるが、応力を取り除くと元の状態に戻る。 |
塑性変形 | ある範囲を超える応力を加えると、応力を取り除いても元の状態に戻らない。 |
許容応力度 | 建築物の各部材や構造材料が外圧を受けた際に内部に生じる抵抗力(=応力、応力度)について、設計の上で許容される(発生しても問題ない)応力度の範囲のこと。部材の強度や変形上支障のないような安全率を見込んで決定される。この中の「安全率」を定める際に「材料が弾性体とみなされる範囲内に許容応力度を抑える」という規定が含まれている。 |
許容応力度設計法 | 構造物に発生する応力度がその構造物を構成している材料の許容応力度を超えないように設計する方法。つまり、設計荷重を受けても機能を損なわない(元の状態に戻る)よう設計する。 |
【確認】構造設計の方針、条件
構造設計の元となる(準拠している)指針、基準、設計法、JIS規格等が記載されているか。
項目 | 一般的な例 |
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設計方法 | 許容応力度設計法 など |
鋼部材の構造設計 | 鋼構造設計施工指針・同解説 など |
アルミ部材の構造設計 | アルミニウム建築構造設計基準・同解説 など |
ステンレス部材の構造設計 | ステンレス建築構造設計基準・同解説 など |
基礎構造 | 建築基礎構造設計指針 など |
太陽電池発電設備の設置場所に適切な設計条件が記載されているか。
【確認】設計荷重(固定荷重、風圧荷重、地震荷重、積雪荷重)
設計荷重は、JIS C 8955(2017)「太陽電池アレイ用支持物の設計用荷重算定方法」 に基づいて強度を計算して、支持物を設計するのが一般的です。
この計算で得られるのは再現期間50年(50年に一度程度発生する自然事象の強さ)の荷重となります。
種別 | 概要 |
---|---|
固定荷重 | 設備自体の質量(アレイ、支持物など)による荷重。つまり、常時作用する荷重のこと。 |
風圧荷重 | アレイ、支持物に加わる風圧力の合計。 |
地震荷重 | 地震時に、アレイと支持物に加わる水平方向の地震力。 |
積雪荷重 | アレイ面に積雪があった場合、積雪にとり垂直に加わる荷重。 |
ただし、上記は一般的な地上設置型の太陽発電設備を想定したものであり、水上設置型など特殊な環境下で設置するものについては、再現期間50年で想定した他の荷重も考慮して設計する必要があります。
主な項目 | 概要 |
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JIS C 8955(2017) | 旧版であるJIS C 8955(2004)を用いた場合、荷重の算出方法が緩いため技術基準不適合となる恐れがある。例えば、設計荷重の計算に用いる風力係数や速度圧が2004版から2017版では条件によっては約1.5倍になっており、約2.3倍の耐風圧性能が要求される場合があります。 |
風圧荷重(基準風速) | 計算に用いられる基準風速V0は、設置場所の地域の値が用いられているか。基準風速V0は地域ごとに設定されているため、台風が直撃しやすい沖縄県や西日本の太平洋側の沿岸地域で大きい値となっており、要求される風圧荷重への耐力も大きくなる。 |
風圧荷重(地表面粗度区分) | 計算に用いられる地表面粗度区分(地表面上の建築物や樹木等の大きさや密度による粗さの区分)は適切か。 |
風圧荷重(風速の割り増し係数Eg) | 傾斜地や崖地などでは風速が増加しやすいことから、小地形による風速の割り増し係数 Egを用いて風圧荷重が計算されているか。 |
積雪荷重(勾配係数) | アレイの傾斜角に応じて適切な勾配係数を用いて積雪荷重を算出しているか(最大荷重のみ算出している場合、勾配が最も小さいものを元に勾配係数を用いているか)。 |
積雪荷重(降雨による割増荷重) | アレイ面の上に積雪した後、降雨があると、通常よりも大きな積雪荷重が加わる。太陽電池アレイの上端から下端までの水平投影長さが10m以上かつアレイ面の傾斜角度が15度以下の場合、割増荷重を考慮しているか(国土交通省告示第594号)。 |
風圧荷重が大きい沖縄や太平洋沿岸地域では、風圧荷重の影響を減らすためにアレイの傾斜角を小さく(水平に近く)している傾向にある。
逆に、日本海側沿岸地域や東北・北海道地方などの積雪荷重が大きい地域では、積雪荷重の影響を減らすためにアレイの(落雪させるために)傾斜角を大きくとる傾向にある。
【補足】
解釈の解説に記載されている設計ガイドラインの「技術資料A-5」では、以下のように記載されています。
【設計ガイドライン 技術資料A-5】
傾斜地に設置される太陽光発電システムのアレイ面に作用する風力係数については既往の研究事例が少なく不明な点が多い。傾斜地に建設される建築物の風荷重について建築基準法(平成 12 年建設省告示第 1454 号)や建築物荷重指針では風速の割り増しに対して考慮することが規定されているが、風力係数への影響については触れられていない。JIS C8955:2017 においても同様で、同JISの解説 d)において風速(環境係数)の割増しについての記載はあるが、風力係数への影響に関する記載はない。これらのことから、同JISに規定された風力係数をそのまま用いることも考えられる。ところが、近年、地盤面とアレイ面との相対角が大きくなる北側下りの傾斜地にもアレイが設置され、平坦地の場合より風力係数が大きくなる懸念のあるケースも散見される。傾斜地(崖地などの急斜面を除く)における地表面近くの風は地面に沿って流れるため、法肩や法尻を除けば傾斜した地盤面とアレイ面の相対角を用いて風力係数を設定することでほぼ適切に設定できると考えられる。染川らの研究結果 A4)においても傾斜地の地盤面とアレイ面との相対角を用いることで、安全に設計できる可能性を示している。これらを総合的に判断し、風洞実験等を行わずにアレイ面の風力係数を簡便かつ概ね安全な値に設定する方法を次に示す。
・図 A3 のように傾斜地盤面に対するアレイ面の相対角度 θa を求める。
・θa をアレイ面の傾斜角θとして本設計ガイドラインの式(6) 、式(7)によって風力係数を求める。
・南・北方向の傾斜地盤だけでなく、東・西方向の傾斜面にも適用する。
崖地などの急斜面を除く斜面であれば、地盤面とアレイ面の相対角を用いて風力係数を設定することがほぼ適切と述べられています。
崖地とは、一般的に「地表面が水平面に対し30度を超える角度をなす土地」と言われています。
例えば神奈川県の建築基準法施行条例ではがけ地について以下のように30度を超える傾斜地と定義されています。
(都道府県によっては記載がなかったり書きぶりが異なります)
【神奈川県 建築基準法施行条例】
(災害危険区域内の建築物)
第2条の 3 災害危険区域内において居室を有する建築物を建築する場合には、次条に規定するもののほか、当該建築物の基礎及び主要構造部は、鉄筋コンクリート造又はこれに類する構造とし、かつ、当該居室は、がけ(こう配が 30 度をこえる傾斜地をいう。次条において同じ。)に直接面していないものでなければならない。ただし、がけくずれによる被害をうけるおそれのない場合はこの限りでない。
また、設計ガイドラインの「技術資料A-5」では法肩・法尻や複雑な地形に太陽光発電設備を設置する場合については、風力係数の計算は、設計ガイドラインの式(6) 、式(7)ではなく、「風洞実験」や「数値流体解析(CFD)」によって求めることが望ましいと以下のように記載されています。
【設計ガイドライン 技術資料A-5】
一方、太陽光発電設備が法肩・法尻にまで設置される場合や複雑な地形に設置される場合には、風洞実験や数値流体解析(CFD)によってアレイ面の風力係数を求めることが望ましい。風洞実験やCFDを適切に実施するためには多くの専門知識を要するため、経験豊富な専門家と相談の上、次の点に注意して実施することを推奨する。
・地形と太陽光発電設備を適切に再現する。
・気流は、太陽光発電設備の建設地の地表面粗度区分に対応した乱流とする。
・アレイの風力係数は風向角によって変化するため、順風、逆風の 2 風向だけでなく、斜めからの風向についても測定(計算)を行う注 1。
・測定(計算)するアレイの風力係数は、平均風力係数(時間平均値)ではなく、ピーク風力係数(正・負の最大瞬間値)とする。
・測定されたピーク風力係数を想定した気流のガスト影響係数 Gf(本設計ガイドラインの表 4-2)で除して等価風力係数を求める注 2。
・等価風力係数の全風向中の最大値、最小値をもとに設計用風力係数を設定する。
・CFDによる場合には LES(Large Eddy Simulation)を用いることとし、文献 A3)に適合する解析を行う。
・風洞実験やCFDによって風力係数を求めた場合、地形による風速の割り増し等の効果も含まれるので、専門家と相談のうえ設計用風荷重を決定することを推奨する。
【確認】架台構造
主な項目 | 概要 |
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架台構造 | 安定構造になっているか(不安定構造となっていないか) |
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