【DC-DCコンバータ】コイル・ブースター回路による昇圧の原理

コイルを用いて電圧を上げるDC-DCコンバータ(チョッパ回路・コイルブースター回路)の原理を解説します。

昇圧回路(ブースター回路)

昇圧回路とは、その名の通り、電源の電圧を上げる回路です。
最も簡単な昇圧回路は、コイルを用いることで作成できます。
そのような回路を「DC-DCコンバータ」「チョッパ回路」「コイルブースター回路」ともいいます。

コイルを利用した昇圧回路の基本図は以下の通りです。

次の1, 2のようにスイッチのON/OFFを高速に切換えることで出力電圧Voを上昇させることができます。

1 スイッチをONすると、入力電圧Viからコイルを介してGNDへの電流が序々に増加します(コイルは電流の「増加」を妨げようとする働きがあり、初期電流から徐々に増加する)。このときコイルに電流が流れることで、コイルにエネルギーが蓄積されます。
2 スイッチをOFFにすると、コイルは電流を流しつづけようとするため、蓄積したエネルギーを電流として放出します。この電流によって出力コンデンサが充電され出力電圧Voは上昇します。コンデンサは、OFFの間はコンデンサから回路に電流を供給し、スイッチの「ON」「OFF」の間に発生する電圧の谷間を埋めます(平滑化)。このとき、ダイオードDがあるので逆バイアスとなり、コンデンサCの電荷はスイッチの左側には放電されません。コイルは平滑化には寄与しておらず、平滑化の役割はコンデンサのみが担っているたため、比較的大きな容量のコンデンサが必要になります。

【原理】

スイッチON

スイッチがONしたとき、コイル(インダクタンスL)に流れる電流は、それまでに流れていた電流を(IS)を初期値として時間に比例して次の式のように増加します。

(1)   \begin{eqnarray*} I_L=I_0+\frac{V_{in}}{L}t \end{eqnarray*}

スイッチがONしている時間をTonとすると,電流の増加量Id1は次の式で計算できます。

(2)   \begin{eqnarray*} I_{d1}=\frac{V_{in}}{L}T_{on} \end{eqnarray*}

スイッチがONしているとき、ダイオードDは逆バイアスとなり、コンデンサCの電荷は放電されません。
スイッチがOFFしたときに、コンデンサCと負荷に電流が供給されます。

スイッチOFF

スイッチをOFFにしたとき、コイルにはそれまでに流れていた電流を流し続けようとする性質があるため、ダイオードを介して電流が流れます。
そのとき、出力電圧Voutは,入力電圧(Vin)にコイル(L)に発生する電圧が加算されたものになり、昇圧されます。
そして、コイル(L)の電流は時間に比例して減少します.

(3)   \begin{eqnarray*} I_L=I_0+\frac{V_{in}}{L}T_{in}+\frac{V_{out}-V_{in}}{L}t \end{eqnarray*}

スイッチがOFFしている時間をToffとすると,電流の減少量Id2は次の式で計算できます。

(4)   \begin{eqnarray*} I_{d2}=\frac{V_{out}-V_{in}}{L}T_{off}\\ \end{eqnarray*}

コイルの増加電流(Id1)と減少電流(Id2)は等しいため、以下の等式が成り立ち、整理すると以下のようになります。

(5)   \begin{eqnarray*} I_{d1}&=&I_{d2}\\ \frac{V_{in}}{L}T_{on}&=&\frac{V_{out}-V_{in}}{L}T_{off}\\ V_{out}&=&\frac{1}{1-D}V_{in}\\ \end{eqnarray*}

※D:スイッチがONするデューティ比 Ton/(Ton+Toff)

また、スイッチON~OFFの間(TonからToff期間)にわたってVinが供給する平均電流をIin、Toff期間にVoutが出力する電流をIoutとすると、その関係式は以下のとおりになります。

(6)   \begin{eqnarray*} V_{in}\times I_{in} = V_{out} \times I_{out} \end{eqnarray*}

よって、昇圧比(入力電圧と出力電圧の比)が大きくなると、最大出力電流が低下します。

【補足】電流連続モード、電流不連続モード(電流断続モード)

電流連続モード

前節では、スイッチON(Ton)時のコイル電流の増加量Id1と スイッチOFF(Toff)時のコイル電流の減少量Id2が等価という条件で出力電圧の計算式を導きました。
この条件はコイル電流が連続している状態を電流連続モードであることを意味しています。
電流連続モードとなるのは負荷電流 Ioutとコイル電流の増減幅(リップル電流)ΔIが以下の条件を満たすときです。

(7)   \begin{eqnarray*} I_{out} \geqq frac{1}{2}\Delta I \end{eqnarray*}

特に I_{out} = \frac{1}{2}\Delta I となる場合を臨界モードといいます。

電流不連続モード

電流不連続モードとなるのは、負荷電流 Ioutと連続モード時のコイル電流の増減幅(リップル電流)ΔIが以下の条件を満たすときです。

(8)   \begin{eqnarray*} I_{out} < \frac{1}{2}\Delta I \end{eqnarray*}

このとき、コイル電流の逆流が起き効率低下の要因となるためスイッチをOFFして逆流を防止します。このためコイル電流が不連続となります。
電流不連続モードの PWM制御では負荷電流の大きさに応じて Ton幅を調整することで出力電圧を安定化させます。 PWM方式は負荷電流によらず常に一定の周波数で常時スイッチングさせており、そのため負荷電流が少なくなる軽負荷の場合、負荷で消費する電力に対して、DC/DCコンバータで消費する電力が大きくなり、変換効率が低下します。

【パラメータ決定】コイルとコンデンサ

素子 概要
スイッチ スイッチング周波数が高くなるほど、インダクタの寸法は小さくなります。
コンデンサ DCDCコンバータから出力される電流は、交流成分を含み出力コンデンサへ流れます。この交流成分により発生するリップル電圧は、出力コンデンサのESRによって決まります。
コイル コイルの最大定格電流はコンバータの出力電流より大きくする必要があります。また、コイルに要求されるインダクタンス値が減少すると、発生するリップル電流値も減少します。低いリップル電流は低いリップル電圧を生じるため、所定の出力電圧に対してより高いESR値のコンデンサを使用できます。

(9)   \begin{eqnarray*} L=\frac{V_{in}^2(V_out+V_D-V_{in})}{(V_{out}+V_D)^2 \times r_{cr}\times I_{out}\time 2f}\timrd 20^6 \end{eqnarray*}

V_D:ダイオードによる電圧降下
r_{cr}:di/Iout (0.2~0.4の範囲内に収めるのが望ましい)
di:リップル電圧/ESRコンデンサ

参考文献
1 DC/DCコンバータへのインダクタ導入ガイド
【DCDCコンバータ】デューティー比をインダクタ電流の最大値と最小値、スイッチング周波数から導出
DCDCコンバータのデューティー比をインダクタ電流の最大値と最小値、スイッチング周波数から導出する方法を解説します。

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