電験3種におけるPASとSOG付DGRとは?役割、仕組み、注意点についてまとめました。
PASと方向性SOG制御装置の役割・仕組み
SOG(Storage Over Current Ground、過電流蓄勢トリップ付地絡トリップ動作)とは、区分開閉器(PASなど)に接地される保護継電器の1つです。その名のとおり、SOGは以下2つの機能をもち、PASと一緒に利用されます。
- SO動作(過電流蓄勢トリップ)
- 短絡電流(蓄勢+過電流)を検出したときにPASをトリップさせる
地絡電流を検出したときにPASをトリップさせる
- 短絡電流(蓄勢+過電流)を検出したときにPASをトリップさせる
また、方向性SOG制御装置というように「方向性」と付いている場合、過負荷(短絡電流や地絡電流)の原因となった事故点がPASの1次側か2次側か判定できます。
ただし、SOG制御装置が過電流(短絡電流や地絡電流)を検出した場合、直ちにPASをトリップさせるわけではなく、トリップ出力を一時的にロックします。理由は、PASは遮断器でなく開閉器であるため、短絡電流のような大電流を遮断できないからです。
そのため、PAS~主遮断装置(VCBやLBSなど)の間で発生した短絡事故は、保護することができません。代わりに電力会社が管理する配電線用遮断器がトリップし、停電後にPASを開放し、再閉路を成功させます。
このように短絡事故が発生した場合にPASが誤ってトリップしないようにロックし、停電後にトリップさせるようになっており、これを過電流ロック機構と呼びます。
- 構内で短絡事故や地絡事故が発生し、過電流が流れます
- 方向性SOG制御装置がPAS2次側(構内側)で事故が発生したことを検知します(PASへ動作信号は出さない)。
- 電力会社の配電用遮断器が事故を検知して遮断します(数分間)。
- 配電線路が停電するので、構内(自社の事業場)だけでなく、構外(同じ配電線路から電力供給を受けている他の事業場)も停電します。
- 配電線路が停電している間に、方向性SOG制御装置がPASへ動作信号を送り、PASをトリップさせます(PASが開放状態になります)。
- 電力会社の配電用遮断器が動作してから数分後に自動的に再投入されます(これを「再閉路」といいます)。
- PASが開放されているため、構内は停電しますが、事故点が配電線路(系統)から切り離されているため、過電流は流れず、電力会社の配電用遮断器も動作しないため、構外の他の事業場は停電せず、波及事故になりません。
- 構内は停電しており、PASが開放状態になっているため、構内に事故点があることがわかるので、構内の事故点を修復し、停電点検を行って異常が解消されたことを確認したあと、PASを投入して復電します。
このように、方向性SOG制御装置とPASを受電設備に導入していれば、波及事故を防ぐことができます。
厳密には、電力会社の配電用遮断器が動作して遮断している数分間は他社も停電しますが、波及事故扱いにはなりません。
過電流ロック機構
PASの内部には過電流検出用のCT(電流センサー)とリレースイッチ(マイクロスイッチ)があります。
過電流が流れた場合、リレースイッチ(マイクロスイッチ)がONになってトリップ回路(Va-Vc間)が開放され、トリップコイルが励磁されない(PASが開放しない)ようになっています。
この時、Vb-Vc間が接点し、Vb-Vc間が接点したことをSOG制御装置(地絡継電器)は、内部回路で検出します。これにより、SOG制御装置はPASが過電流ロックしたと判断します。この後、SOG制御装置の制御電源が喪失すれば、停電状態と判断し、PAS内部のトリップコイルを励磁させ、PASを開放させます。
ちなみに過電流ロック(SO動作)の確認試験は、Vb-Vc間を短絡し、制御電源を開放すれば実施できます。
PASのSO動作
- 構内で短絡事故が発生し、短絡電流が流れる。PAS内部のCTが短絡電流を検知してマイクロスイッチが作動して過電流ロック保護がかかり、VbとVcが短絡状態になり、PASは開放されなくなる。
- VbとVcが短絡状態になったことをSOG制御装置が内部回路で検出し、短絡電流が流れていることを認識する。
- 電力会社の責任範囲にある配電線側の変電所内にある配電線用遮断器が短絡電流を検出してトリップする。
- 配電線用遮断器の2次側が停電状態となるため、構内が停電する。
- 構内停電により、SOG制御装置の電源端子(P1-P2端子)に電源が供給されなくなる。SOG制御装置は停電状態と認識し、コンデンサによりVa-Vb端子に電圧を印加し、PASのトリップコイルを励磁させ、PASを開放させる。
- 配電線用遮断器が投入され(再送電、再閉路)、構外の停電が解消される(PASが開放しているので、事故点が系統から切り離される)。
波及事故扱いにならない理由
「電気関係報告規則 第3条」と「電気関係報告規則第3条及び第3条の2の運用について(内規)(以下、「内規」)」に記載されています。
【規則 第3条第1項第7号】
七 供給支障電力が七千キロワット以上七万キロワット未満の供給支障事故であつて、その供給支障時間が一時間以上のもの、又は供給支障電力が七万キロワット以上十万キロワット未満の供給支障事故であつて、その供給支障時間が十分以上のもの(第九号及び第十一号に掲げるものを除く。)
供給支障電力が十万キロワット以上の供給支障事故であつて、その供給支障時間が十分以上のもの(第十号及び第十一号に掲げるものを除く。)【規則 第3条第1項第11号】
十一 一般送配電気事業者の一般送配電気事の用に供する電気 工作物又は特定送配電事業者の特定送配電事業の用に供する 電気工作物と電気的に接続されている電圧3,000V以上の自家用電気工作物の破損事故又は自家用電気工作物の誤操作若しくは自家用電気工作物を操作しないことにより一般送配電事業者又は特定送配電事業者に供給支障を発生させた事故
【内規】
【第3条第1項第7号、第8号】供給支障事故
(略)
ハ 電路が一旦遮断された後に、低速度再閉路も含めて自動的に再閉路が成功したとき、又は自動的に系統切替が成功したときは、供給支障事故とはみなさない。
ニ 規則第1条第2項第8号中「当該電気工作物を管理する者を除く。」とあるのは、自家用電気工作物に事故があって、その事故による支障が電気事業者に波及したことにより、当該自家用電気工作物設置者への電気の供給が停止又は使用が制限された場合には、それは供給支障とはみなさないという意味である。すなわち、専用線で受電している自家用電気工作物設置者の場合、自家用構内の事故のため、一般送配電事業者の変電所の引出口遮断器がトリップして停電しても、これは供給支障事故とはみなさない。
ちなみに、関西電力のHPによると、関西電力では最初の遮断時間は1分間なようです。
【注意点】停電点検でSOGの動作試験をする場合、PAS内蔵のVTからの電源線(P1、P2配線)は取り外す
PASには、SOGやDGRの電源供給用に小容量のVTが内蔵されているタイプがあります(通称「VT内蔵型PAS」)。
通常使用時、PAS内臓のVTとSOG制御装置のP1、P2配線が接続され、SOG制御装置に電源が供給されています。
しかし、停電点検時はPAS内臓のVTから電源が供給されないため、SOG制御装置の動作試験を実施する際は、別電源を用意してSOG制御装置に接続して電源を供給します。
このとき、事前にP1、P2配線を外しておく必要があります。
もし外さないと、以下の流れでPAS内蔵VTが破損し、復電後に波及事故に至るケースがあります。
– | 波及事故に至る流れ |
---|---|
1 | P1、P2配線が接続された状態(PAS内蔵VTと)で、別電源からSOG制御装置のP1P2に電源を印加する。 |
2 | PAS内蔵VT2次側に別電源の電圧が印加され、PAS内蔵VT1次側に6600Vが印加される |
3 | 構内ケーブルに対地静電容量分の充電電流が流れ、PAS内蔵VTの定格以上の電流が流れて破損する(通常、PAS内蔵VTはSOG制御装置の電源用なので定格容量がかなり小さい)(構内ケーブルの作業員が感電する危険性もあります)。 |
4 | PAS内蔵VTの破損に気づかないまま、復電するとPAS内蔵VTで短絡し、SOG制御装置も動作しないためPASも動作せず波及事故に至る可能性がある。 |
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地絡継電器にはトリップ端子(Va・Vb・Vc)があります。が、Vbの必要性がよくわかりません。
PASの内部には過電流用のCTとリレーがあり、過電流が流れた場合にはトリップ回路(Va-Vc間)が開放され、トリップコイルが励磁されないようになっています。
この時、Vb-Vc間が接点します。
Vb-Vc間が接点したことによりSOG制御装置(地絡継電器)は、PASが過電流ロックしたと判断します。
この後、SOG制御装置の制御電源が喪失すれば、停電と判断しPASをトリップさせます。
説明が長くなりましたが、結局のところVbとは、PASがロックしたことをSOG制御装置が判断するためのものとなります。
ちなみに過電流ロックの試験は、Vb-Vc間を短絡し、制御電源を開放すれば試験ができます。
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